あれは、私が初めて一人暮らしを始めた時のことです。期待に胸を膨らませて新居に引っ越し、家電の設置も終わり、さあ初めての洗濯をしようと意気込んでいました。洗濯機に洗濯物を入れ、洗剤を投入し、いざスタートボタンを押そうとした瞬間、ふと気づいたのです。「あれ?水が出ない…?」。そういえば、引っ越しの際、業者さんが「洗濯機の設置は終わりましたが、元栓は閉めてありますから、使う時に開けてくださいね」と言っていたことを思い出しました。なるほど、元栓を開けなければ水は出ないのか、と納得し、洗濯機の周りを見渡しました。洗濯機のすぐ後ろの壁に、蛇口らしきものがあるのは分かります。しかし、それがどう見ても固く閉まっているのです。力を込めて回そうとしても、ビクともしません。「え、これ、どうやって開けるの…?」軽いパニックに陥りました。昔実家で見た洗濯機の蛇口は、もっと簡単なハンドル式だったはず。目の前にあるのは、なんだか複雑な形をした銀色の物体。ホースが繋がっている部分には、白いプラスチックのような部品も見えます。説明書を読んでも、蛇口の開け方までは詳しく書かれていません。インターネットで「洗濯機 蛇口 開け方」などと検索してみますが、出てくるのは一般的なハンドル式の蛇口ばかり。私の目の前にある蛇口とは形状が違います。焦りは募るばかり。洗濯物は洗濯機の中、洗剤も入れてしまった。もう後戻りはできません。「もしかして、どこか別の場所に大元の元栓があるのでは?」と思い、洗面所の下の収納を開けたり、キッチンのシンク下を覗いたりしましたが、それらしきものは見当たりません。途方に暮れかけたその時、ふと蛇口の根元に近い部分に、小さなレバーのようなものがあることに気づきました。試しにそれをクイッと90度ほど回してみると…「カチッ」という小さな音とともに、蛇口の先端部分からほんの少しだけ水が滴りました。「これだ!」直感的に分かりました。どうやら、私が見ていたのは緊急止水弁付きの特殊な蛇口で、ハンドルではなく小さなレバーで開閉するタイプだったのです。力を込めて回そうとしていた部分は、そもそも回すためのものではありませんでした。無事に元栓を開け、洗濯機が勢いよく給水を始めた時の安堵感といったら。水が流れる音が、あんなに頼もしく聞こえたことはありません。
洗濯機の元栓探しで大慌てした話