それは、暦の上では春が近いとはいえ、まだまだ厳しい寒さが残る2月の朝のことだった。佐藤さん一家は、いつものように慌ただしい朝の支度を始めていた。小学生の娘、さくらちゃんが歯磨きをしようと洗面所の蛇口をひねる。「パパ、お水が出ないよー!」さくらちゃんの声に、キッチンで朝食の準備をしていた父親の健一さんが駆けつける。確かに、蛇口からは一滴の水も出てこない。「え、まさか…」。健一さんは慌ててキッチンの蛇口も確認するが、結果は同じだった。家中がシンと静まり返る。母親の恵美さんも心配そうな顔で様子を見に来た。「もしかして、水道、凍っちゃったのかしら…?昨日の夜、すごく冷え込んだものね」。テレビの天気予報では、今シーズン一番の冷え込みだと報じていたことを思い出す。健一さんは「大丈夫、なんとかするよ」と家族を安心させようとしたものの、内心は焦っていた。水道が使えないとなると、朝食の準備はもちろん、トイレを流すことすらままならない。まずは原因を突き止めようと、健一さんは懐中電灯を手に、家の裏手にある水道メーターを確認しに向かった。メーターボックスを開けると、案の定、銀色の水道管がうっすらと白くなっているように見える。「やっぱり凍結か…」。家に戻り、健一さんはスマートフォンで対処法を検索した。「熱湯はダメらしい。ぬるま湯をかけるのがいいって書いてある」。恵美さんは早速やかんでお湯を沸かし、適温になるまで冷ます。さくらちゃんも心配そうにその様子を見守っている。健一さんはタオルを数枚用意し、再び外へ。凍結していると思われる箇所にタオルを巻き、恵美さんが持ってきたぬるま湯を、健一さんがゆっくりとかけ始めた。「頼む、溶けてくれ…!」心の中で祈りながら、作業を続ける。冷たい空気の中、湯気が立ち上る。しばらくすると、メーターの小さな針が、ほんの少しだけ動いたように見えた。「お、動いたか?」期待を込めて家の中の蛇口を確認するが、まだ水は出ない。諦めずにぬるま湯をかけ続けること約30分。家の中から「ゴボッ」という音が響いた。恵美さんが洗面所の蛇口をひねると、勢いよく水が流れ出した!「やったー!出た!」さくらちゃんの歓声が響く。健一さんと恵美さんも、思わず顔を見合わせて安堵の息をついた。大変な朝にはなったが、家族で協力してトラブルを乗り越えたことで、どこか一体感が生まれたような気がした。
ある寒い朝突然の水道凍結に家族は